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ラルドよわたしの血となり脂肪となれ その2

 こんにちは小春です。

 前回は急用が入って途中になってしまって、随分間も空けてしまいました。申し訳ございませんでした。

 それでは、お話の続きです。

 自転車を飛ばして家に帰ったわたしは,ラルドのことをとりあえず頭から締め出すため借りてきたばかりの「志ん生大全集」を取り出し,まずは第一巻収録のおなじみ「火炎太鼓」から聞き始めました

「待ってました!」

 やっぱり志ん生は最高!

 二十巻くらいまで聞く予定だったのに日常の生活の中ではままならず、第十一巻「厩火事」まできいたところでいよいよその日がやってきました。

 マリアさんの好きな食べ方も試してみようと、わたしの数少ないワインリストの中からイタリアワイン(キャンティクラッシコ)を一本選び(一本しかなかったんですけどね)夫トモヤと夕方まで待ち切れず3時頃に出かけたのです。

 父ケンジの家に着くと父は「やっぱり待ち切れなかったか」とお見通しみたいな事を言いましたが、それは父も同じと見えてもう居間の座卓にはやはりイタリアのお酒グラッパが2本置いてあり1本はもう封を切って飲み始めてるし、お酒は飲めないくせに、父との30年以上に及ぶ暮らしの中ですっかり珍味好きになってしまった母ヒロコが、ニコニコと笑いながら「遅かったわねえ」と箸を並べたりしていてもう食べる気満々なんです。

「もう飲んでるの、それもいきなりグラッパからって」

「ワインが遅いからしょうがないだろう。1本しかないのか?」

「イタリアワインは1本しかなかったの、で何でわたしがワイン担当なのよ」

「フランスだって、チリだってよかったのに、たくさん持ってんだろ」

「今日はイタリアなの、自分だってグラッパじゃない」

「はいはい、早く食べましょ」

 母がラルドらしきパックされた物を手に持ち、わたしたちを無視して

「トモヤさん、どうやって戴きましょうかねえ」

「そうですねえ、まずはこのまま味をみてみましょうか?」

「そうねえ、どのくらいの厚みで切ればいいかしら」

「僕、やりますよ」

 夫がパックを受取り二人で台所へ入っていくので、わたしもあわてて後を追いました。

200グラム程の塊のパックを夫が包丁の先で切り裂き、中の塊を取り出します。

こんなのです。

 表面の黒っぽいところは、ハーブとスパイスに覆われていて、良い香りがしています。

 びっくりなのはその下にある脂身の美しさ、背脂そのままだと少し肌色がかった白なんですけどこの脂身は少し青味のあるグレーできめが細かい感じがするんです。

「色っぽいなあ」

 いつのまにか後ろに来ていた父が言った通り、なんとなくなまめかしい色合いです。

「切りますよ」

 夫がこれでもかとゆうくらい薄く4枚スライスしたのをまず父がつまみ口の中へ入れた。

「うーん」

 ゆっくり下顎を動かし目を閉じる。

「どう、どう」

「どう、どうって俺は馬か。自分で食ってみろよ」

 そう言われて三人が一緒に手を伸ばしてそれぞれ口の中へ入れた。 冷蔵庫で冷やされていたそれは舌の上で温められハーブの香りをゆっくりと立ち上らせ少し強めの塩分と脂の甘みがその後から追いかけてくる。

「これは珍味だなあ」

 4人の中では一番寡黙な夫トモヤがまず口を開くと、母ヒロコが

「ほんとねえ、お酒が飲みたくなっちゃうわねえ」

 と、飲めないのにいいこと言います。

 わたしはと言えばこのブログで書くつもりなので、きちんとレポートしなきゃと思い色々考えてるんです。

 わたしたちは珍味好きだからこの塩分でいい塩梅だけども、普通だったら塩辛い部類に入るのかなあとか、こんな脂の塊身体に良くないよねえとか。

「少し塩味きついし、脂っぽいよねえ」

「嫌いか?」と父

「大好き」

「それじゃ、いいじゃねかよ」

 そうなんだ。わたしが好きならいいんだよね。塩味きついの好き出し、脂っこいもの大好きだし、それにこの香りときたら鼻の奥を刺激して次の一切れを催促して来るんです。

「どうやって食べようか」

 4人でいろんな食べ方を試すには少し心もとない量です。

「もう少し買っとけばいいのに」

「フン!もう一本あるよ」と冷蔵庫から出して来た。

「もう最初から出しなさいよね」

と言うわたしの顔は、多分だらしない顔だったと思います。(お恥ずかしい)

「一本はマリアさんが言ってたみたいに、厚めに切ってあぶってワインと一緒に」

 わたしが言ったのに誰も否はなく。

 2つ目のパックを父から受け取りながら夫トモヤが

「こっちはどうしましょう?」と聞くと父は

「それは、後の話だ」

「そうそう」と、こうゆうことはわたしと父は意見が必ず一致する。

 要は早く食べたいだけなんです。

 1ミリくらいの厚みに切って20枚ほどになったのを、温めたフライパンの中に油も引かずに手早く並べると、最後の1枚を置くころには最初の1枚の端が反り上がって自らが出した油を真中にためている。

「片面焼きでいいなあ」とわたしに輪をかけた油好きの父が言うと

「そうですねえ」とその意を汲んだ夫が手早く油を落とさないように箸で取り出したところへ、すでに食器棚から出していた皿をわたしが差し出す。居間では母がワインのコルクを開けてグラスに注ぎ終え、自分のお茶を淹れている。

全く、食べる事になるとこの家族は抜群のチームワークを発揮するんです。

 フライパンを火にかけてから、3分後にはそれぞれが熱々のラルドを口の中に入れていた。

 誰も何も言わず咀嚼すると、ほとんど同時にワインを飲む。

 父がワインの事かラルドの事か多分どちらもであろう

「うまい!」と言うとわたしたちも頷く。

 ワインのキャンティクラッシコは、キャンティワインの中でも老舗の蔵でつくられるワインでよく言えば飲みやすく悪く言えば味が薄いキャンティのイメージとは違い、葡萄の豊潤な香りが印象深い味でラルドのスパイシーでティスティーでオイリーな(ちょっとルー大柴風)味に負けてません。

 とにかく熱々のうちにと急いで食べ飲み、すべてを食べ終えるのに10分もかかりませんでした。

 ワインもちょうど最後の一杯ずつになって、やっとそれぞれの目を合わせたところで、夫が「マリアさんに乾杯ですね」と言った。

 わたしたちは、店に来られるお客さんたちがよくやってる最初の一杯の乾杯も含め、乾杯とゆうのをもともとあまりやらないのですが、その時はみんながグラスと湯呑を持って「マリアさんに」とグラスを差し上げた

 少し物足りないなあと感じてたところで父が「もうひとつも焼いちまうか」と言うと母はどうしてもパスタに使いたいらしく、確かに番茶でこれは少ししんどいかも(番茶にパスタもどうかとは思うけど)と半分だけ同じように食べようとゆうことになり今度はグラッパを開ける。

「私が焼いて来てあげるからあなた達飲んでなさい」

 全部使ってしまわれるのを恐れた母が台所に入って行く。

とにかく食べ物の事では、わたしと父は彼女にまったく信用がない。

 まだわたしが中学生の頃に、母がお歳暮として実家に持って行こうと用意していた活きた伊勢海老を、彼女が1時間ほど出かけてる間に入れ替わりに帰って来たわたし達が茹でて食べてしまった事があったんです。

 それ以来母はわたし達に食べられたくない物には、「食べちゃダメ」と書いた紙を貼り付けておくんです。

「それじゃあバゲット焼いてくれよ1センチくらいで、ラルドは最初に味見した時くらいに薄く切って焼かなくていいや」

 これはネットでラルドを調べた時にあった食べ方で、l焼きたてのバゲットの上に乗せて食べるのです。

「ここで焼いたほうがアツアツでいいんじゃないですか?」と母がバゲットとラルドを切ったものとオーブントースターを持ってきたので、卓のうえにおいて早速バゲットを焼き始める。

 焼き上がったバゲットの上に手早く薄切りのラルドを乗せると、みるみうちに白い脂身が透き通ってゆく。

 口の中で溶けてしまうかと思いきや歯に当たると存在感があるんです。脂っぽさがバゲットで緩和されて香りがより際立っていてわたしはこちらの食べ方が好き。

 クラッシュアイスたっぷりのグラスに入れたグラッパを口に含み、葡萄の芳香と豚の野趣あふれる香りが混ざり合ったところで飲み下すと、お腹の中が温かくなりそれと同時に心の中まで暖まって来るようです。

 夫はストレートで一気にグラッパをあおり、身近な人にだけわかる笑顔を浮かべ、父はやはりストレートのそれをちびりと飲み2,3度頷いてます。

 三人ともそれぞれの次の一切れをオーブントースターの中に入れ、焼き上がる間にグラッパを飲み干し、焼き上がるとラルドをのせて口の中へ。こうなるとうちの人たちは口を食べる事と飲む事だけに使いたいのか、喋る事をしません。

 食べる、焼く、飲むそれを何度か繰り返すともう残りはそれぞれに一切れを残すのみになってしまいましたが、最後の一切れを飲み込み2本目のグラッパを飲み始めたところで、パスタの登場です。

 母ヒロコのこうゆうタイミングは本当に絶妙です。

 出来上がったパスタはたまねぎとラルドのみを具材に、オリーブオイルもバターも使わず、ゆでる時に入れた塩だけで他の調味料を一切使っていないシンプルなスパゲッティでした。全部かどうかわからないのですが、うちの2本は皮が付いていてここは硬くて食べられなかったので取り除いていたのですが、これも千切りにして一緒にゆでてあるのです。(さすが、主婦)

「あらおいしいわこれ、ベーコン入れるよりおいしいわねえ」

母の言葉どおり、調味料を使ってないとは思えないほどしっかりした味のそれは、ベーコンよりも豚を食べてる感じがストレートで、バターの風味とオリーブオイルの香りがない分ラルドのハーブが良くきいて、いままで食べた事のない味に仕上がっていました。

脂肪のかたまりと炭水化物を一緒にとるとゆう、逆ダイエットの王道をゆくこの食事に恐れおののきながらも食べる手を休めず、これを食べ終わったら帰ろうと思い外を見ると陽はまだまだ沈まず、決意とはうらはらにそのまま夜更けまで宴会は続いていったのでした。

    

初めての方は、よろしければわたしのブログ「はじめまして、小春です」へこちらからどうぞ。

             http://koharu-chinmi.cocolog-nifty.com/blog/

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